語り得ないものへの断章
佐々宝砂

レトルト・パウチに封じ込んだ80年代をお皿にあけて
電子レンジであたためた
匙ですくってひとくち
あのひとは顔をしかめた
こりゃだめだ
60年代の焼き直しじゃないか

しょうがないから
加圧方式で保存しておいた21世紀最初の10年にお湯を注いで
テーブルに出してあげた
そしたらあのひとはまた顔をしかめた
こりゃだめだ
80年代の焼き直しじゃないか

70年代と90年代の立場がないよねえそんな言い方されたら

とは思ったけどわたしは優しいので
マトゥタ・クアトリエータス方式で保存した2080年代を
繭からとりだしてあのひとにあげた
するとあのひとは言った
こりゃ****だ
*******の****じゃないか

わたしたちは顔を見合わせほほえんだ
果てしない時の流れに果てがあろうとなかろうと
わたしたちの旅には果てがあるらしかった


自由詩 語り得ないものへの断章 Copyright 佐々宝砂 2003-12-26 00:20:19
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