愛おしい密葬
A道化





未だ硬い、既に確かな
夏でもない、秋でもない、果実で
深緑は
瀕死であることを理解している


見上げれば、ひとつの一秒が
高速で遠のいてゆく
わたしは、何に対しても連呼などせぬよう
前もって呼吸を圧搾する
見つめれば、幾つもの一秒が
高速で遠のいてゆく


未だ硬い、既に確かな
夏でもない、秋でもない果実の、生育の日取りを
誤りたい、生育の日取りを
誤りたい


きっと
深緑が正しく失われる間際、生まれる朱色に何かを伝えようとして
結局は何も伝わらないというひとつの一秒が、連呼され、百秒に成り
百秒が連呼されて千秒に成り、そうして、千秒がとうとう、秋に成り
秋でしかない果実の甘みに焦がれ惹かれれば惹かれるほど視力は
許して、と、宙に向かってくらくらと捩れてゆく、捩れてゆくだろう
嗚呼、秋に成れば、許しを乞いながら私は
あとどれだけの青空に耐えねばならないのか?


未だ硬い、既に確かな
夏でもない、秋でもない果実の、深緑の瀕死を
隠匿したい、ねえ、瀕死を、瀕死を
隠匿したい



2005.8.29.


自由詩 愛おしい密葬 Copyright A道化 2005-08-29 01:02:55
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