遠い夏
LEO
僕が生まれた頃
空は今よりもうちょっと身近にあった
雲はいろんなものをカタチ作るから
それだけで面白かったし
行き先も告げずに日の暮れるまで遊んで
「烏が鳴くから帰りましょう」と手を振る毎日
デパートに並ぶカブト虫なんて想像もしなかった
コーカサスオオカブトだとかヘラクレスオオカブトだとか
図鑑の端っこにあったのかどうかさえ覚えていない
ギラギラの太陽の下を歩いても
エアコンが恋しいとも思わなくて
てんこ盛りのかき氷を
ばあちゃんが「はいよ」って縁側に置くから
頭をキーンってさせながら
溶けちゃう前に食べないと
スイカは畑で昼寝して夜に井戸に冷やされて
トウモロコシの終りを火に燃やして
ついでにゴミも燃やして
ダイオキシンが発生したかどうかは知らないけれど
その火の側で花火をやったり
夜にはトラックの荷台に寝転んで
天の川の星々の間に流れる星を数えて
獅子座流星群なんて知らなかったから
自分の為だけに降ってくるような気持ちで
何度も何度も願いを唱えていた
確かに
そんな夏があったんだ
ずっと前に
今でも
何処かにあるのかどうか
それはわからないけれど
今の生活にエアコンがないなんて
考えられなくなっていることだけは確か
僕の体はあの頃の夏を忘れてしまったんだ
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『思い出』