畜生
石原大介
霊安室の白い籐籠のなか
ピンクの野の花にうずもれた君の
艶のない栗色の背中から
ひからびた鼻先から
濁った黒目のまわりから
しぼんだ肉球のすきまから
丸々と太ったノミどもが次から次へと
川のように流れ出ていったんだよ
君のからだがもうじき荼毘に付されるのを悟ったかのようでそれは
なんとも神妙な光景だったよ
何年ぶりだろうリキ、昨日
君の夢をみたよ
繰り返され焼きついた
克明な印象の一部始終が
ほんとうは後に姉と母親から聞かされた話に基づくフィクションで
その時
北陸の半導体工場に勤めていた僕は
君の最期を看取ってすらやれなかった
ほんとうに悲しいのは
すべてが流れ去ってしまう、消えてしまう
そういうことだと思っていたけど
しわしわのぼくの寝床に今夜もまた
作り物の夢たちがざわざわと逆流する
空っぽの映画館の特等席にむかって
いや
それでも
ほんとうのほんとうは
死んだ血が虫の栄養にならないように
死んだ犬の思い出が生活の糧にならない
というだけの話だ