ベリーちゃん
大覚アキラ

観測史上最大級の台風が上陸した日の夕方
未確認の大型生物の屍骸が
四国のとある漁村の浜辺に流れ着いた

地元漁協の連絡を受けて
ある大学の海洋生物学の調査チームが到着したのは
発見から14時間後で
辺りはすでに夜が明けつつあった

全長30メートル近いその生物は
バージェス頁岩生物にも似た奇妙な姿をしており
正確に数えることのできない無数の触手をもち
頭部には直径80センチほどの巨大な眼が
確認できるだけで12個もついていた

腐乱したその屍骸からは
熟した野苺のような甘い匂いが立ち上り
夜が明けて日光を浴び始めると
その匂いは一層強烈になり
約3キロ風下の村落にも届くほどだった

正午近くになって気温が上がり始めると
屍骸の腐乱は加速度的に進行し
見る見るうちに崩れて液状化していき
標本サンプルを採取するのが精一杯だったという

台風が熱帯低気圧に姿を変えたその日の夕方には
骨格を含めた屍骸のほぼ全てが液状化し
浜辺に打ち寄せる波に洗い流されてしまった

調査チームが持ち帰った僅かな標本サンプルも
彼らが研究室に着いた頃には
正確な分析調査が困難なほど変質してしまっており
これといった発見には至らなかったという
結局その大型生物の屍骸が何だったのか
分からないまま一連の出来事の幕は下ろされた

屍骸が放っていた熟した野苺のような匂いは
いまでもその浜辺の砂に染み付いており
その浜辺の砂を乾燥させたものが
「ナゾの海獣?!ベリーちゃんの砂」
という商品名で小瓶に詰められて
地元の民宿の売店などで売られている

ベリーちゃん饅頭やベリーちゃんゼリーなど
さまざまなグッズの商品化がすでに進められており
ベリーちゃんの石像を建てる計画もあるらしい
地元では村おこしに格好の材料ができたと
村民一同大喜びしているそうだ






自由詩 ベリーちゃん Copyright 大覚アキラ 2005-08-25 13:13:48
notebook Home 戻る