家に帰ろう
夜景


貴金属コーナーに群がる高校生は
鼻で笑えたけど
たくさんの買い物袋を両手にさげて信号を待っている中年夫婦を
バスの中から見た時
手袋をはいていない手も
雪の上での足踏みも
会話からもれる白い息も
どれも温かそうで 泣けた
私にはない幸せ
私にはない生活観
あの夫婦は幸せそうだ
私も不幸ではないし
それなりに楽しく遊んでいるけれど
なぜだか たまらなく
たまらなく
一人バスの中
喉のあたりで涙をこらえていた
でも
いいさ、私はこれから家に帰るのだ
父さんにはキーホルダー
母さんにはスカーフ
姉さんには靴下とシンプルな下着
自分には プレゼンとしそこなったメンズのシャツだけど
お返しを期待しない贈り物が
こんなにも心をなごませるなんて
昔の彼の時よりずっと
ワクワクして選んだ
いいさ 今日はクリスマス・イブ
高校生も 中年夫婦も 一人の私も
みんな心にそれぞれ痛い幸せを持ってる
早く家に帰ろう
バスから降りて家までの一〇分はつらいけど
早く家に帰ろう
早く家に帰ろう






自由詩 家に帰ろう Copyright 夜景 2005-08-24 22:45:51
notebook Home 戻る