僕と息子のあいつのためのレクイエム
みもる

たまには外に出て
散歩でもしようと
ぶらぶら街中を一人歩いてみた

毎日の張り詰めた空気が
あまりの快晴にどうでもよくなり
胸のあたりがくすぐったい

通りかかった音楽教室から
見覚えのある声と後姿
懐かしいピアノの音

頭痛と共に
体中にもどかしい電流が一閃

思わず僕は19歳の幻を追いかける

でもやっぱり
その人は
あいつじゃなくて



あのころ
何もしていなかった僕も

今は仕事につき
奇跡的に結婚もし
息子も一人

毎日やってられないとは思うに思うが
なんとかやっている
なんとかやっていてしまう

今の僕を見たら
お前はなんて言うだろう

死ななきゃよかったと
悔やむだろうか

やっぱり死んでてよかったと
安心するだろうか



お前がいなくなってからというもの
ろくに涙を流した記憶がない

きっと年とともに
僕もあちこちガタがきている

でもなぜかお前のことだけは
しあわせになるたびに思い出すんだ

旧友と飲んでいる時
結婚した時
息子が生まれた時
そしてたった今―



お前は決して間違っちゃいない
お前は決して正しくはない

確かに
世の中いやになることばかりだよ

それでも
それでもさぁ

この大馬鹿野郎



息子にお前の名前をつけようかと
一瞬血迷ったけれど
やっぱりやめた

お前に似られたんじゃ困る

代わりに
こんなクソ楽しい世の中を捨てた
お前がかわいそうだから

息子にお前と同じ
ピアノを習わせようと思ってる

いつか息子が弾く
でたらめな旋律が
僕からお前へのレクイエムだ

絶対音感のお前なら
きっと空の上にいても聞こえるだろう?

息子のピアノも
僕のすすり泣きも


自由詩 僕と息子のあいつのためのレクイエム Copyright みもる 2005-08-23 22:50:52
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