「あいうえお」(「五十一のデッサン」より)
たもつ
(あ)
あ
っという間もなく
それはもう
あ
ではなかった
語られることのないおとぎ話は
ただ
さらさら
さらさら
と音めいていて
僕の両手はいつも
掴まえることが
下手くそだった
(い)
い
は
い
であるために分離された
二本の線のことである
だから
い
は
いつまでも悲しい
そう思っていた少女は
ある日星になった
それからこの世界では
い
を見て涙するものは
いなくなった
(う)
うっすら
ふりつもる
それは
うそ
もしくは
うそ
っぽいもの
あなたからの手紙
う
は、いつものように
うつくしく
わんきょくして
(え)
列車から降りると
駅の周りは一面
え
の花でいっぱいだった
若い駅員が鉢植えの
え
の花に水をあげている
あれはきっと
春と呼ばれる季節だったに
ちがいない
君が僕のてのひらに
え
と、小さく書いたのも
(お)
お
と目が合って
そのクルリンとしたところの穴が
お
の目だと初めてしった
とりあえず
お
っと
驚いて
それから
もう
夜だった