『Ciao Totti!』
川村 透

 Ciao Totti!
 チャオ、トッティ!
 木目の、ピノキオ
 君は何の亡骸か?
 スクリーンに映し出された、Saga

 湿った、蒼い敗北の風がピッチを吹き渡る
 冷たいか?それともほの赤く上気した頬はすっぱいか?
 僕たちは敗北を見た、とあるロフト、サッカーカフェ、
 にわか造りのスクリーンの前で
 蒼い敗北が赤いトンネルを駆け抜けていった。
 ロフトの壁にはみだして映る君の失意、模様
 木目のトッティ、ピノキオの鼻
 赤い唐辛子たちに囲まれて濡れた君の頬、
 の
 陰影


 Ciao Totti!
 チャオ、トッティ!
 木目の、ピノキオ
 君は何の亡骸か?
 スクリーンに映し出された、Saga

 僕も、あの木目のスクリーンの中に立っていたんだ
 End Roll、に消えてゆく文字、たちが雨に変わる
 かりそめの昼間の明り、踊る
 カリオカ、熱くて湯気になる、
 サンバよりボサノバ
 Face paintからVanishing point まで
 陽気なのっぺらぼうたち、赤い頬をして君の敗北を祝ってくれている
 拍手の数だけ、失われてゆく
 PRIDE のつぶつぶを数えてみた
 藍色の天にあおぞらの傘を求めて、見た
 ピノキオの鼻は天を目指してむずむずと棹立ち
 蒼き馬のやるせなさ柑橘系の汗を滴らせるうなじ、濡らし
 雨ぞ、
 降る


 こんにちは、敗北。
 ここはカカオ
 カリオカの香ばしさ
 南から流れ着いた果実、マンドリン
 羊のドリー、ドコカラ、Totti!
 僕たち の、ココ、からこんこんとあふれるカカオ・フィズ

 こんな風に君も僕も、終わってしまった
 観客席はすでに静謐に無人
 ピッチは藍色の夏の海だ
 敗北の綿帽子、目深にかぶり僕たちは
 夜の堤防にへたり込む
 鋭角に立ち上がってくるモノ、抑えきれない
 とがりながら、どうしてもひらたくなれない疼きの頂、等高線
 いのちの濃淡が、mapping されている酸っぱい、グラフイカルな分布
 の、まにまに在る確かでいて、よわよわしい明かりに気づく
 てのひらに守られてほのぼのと股間を照らす、君の大切な赤いろうそく
 まだ、消えていない
 揺るぎなくあたたかく、けれど
 海はあらくれて背筋が泡ぶく、くらい不吉だ
 笑って、いないで!
 浪の花のひとひらで、赤い明かりはたやすく消えてしまう
 赤いひかりにおおいかぶさる蒼ざめた馬のいななき、稲光に、たてがみだけが銀色だ
 ピッチを駆けるこどもたちの鈴の、声がするココは、キケンなのに、くちびるを噛む
 ろうそくの香ばしさ、すいかの匂い>>>>マモリヌケ!
 息子たちは夜遊びを続ける、狐の目、フラッシュ、の光の中に棲む、赤い目の一族だ
 月宿る額になんのしるしか?赤い明かりが証し、するものは何だ?


 こんにちは、敗北。
 ここはカカオ
 タピオカのたおやかさ
 僕たちは抱え込んだ敗北を焙煎し続ける
 じゃらじゃらと
 うじゃじゃけたのっぺらぼうたちの目の前で
 彼らの頬に映る陰嚢の陰影が、限りなくまっとうでイノセントでしかないことを、
 カナ、シム。


 Ciao Totti!
 チャオ、トッティ!
 木目の、ピノキオ
 文字は声の亡骸か?
 スクリ−ンに映し出される事のない、Saga

 君も僕も、
 体の芯にむず痒いレモンを抱いたままイメ−ジ通りの軌跡を描いたはずだ
 黒い蜜の中に浸っているような息苦しさ
 髪と髪ふれあわんばかりにぶつかり合って得たモノ
 と、
 こぼれてゆくタール色の、胸の果汁
 ふしくれだった指で蜜柑を剥くように甘やかなウタが染みて来る
 今はからっぽになった果実みたいに膝をつきうつぶせに、目を閉じて、見よう
 ふりしきる赤い歓喜は柑橘系の刺激を超えてもう痛いくらい髪を腕を腿を刺す
 のだから。


 Ciao Totti!
 チャオ、トッティ!
 木目の、ピノキオ
 文字は声の亡骸か?
 スクリ−ンに映し出される事のないSaga

 こんにちは、敗北。
 ここはカカオ
 カリオカの香ばしさ
 南から流れ着いた果実、マンドリン
 羊のドリー、ドコカラ、Totti!
 僕たちのココ、からこんこんとあふれるカカオ・フィズ


 降りしきる雨の中、
 ココ、にあるレモンを一個、ほんの少し噛んでから
 ゴール前に刻まれた君の足跡の中にコボレテイル、ひとつぶのカカオ、の隣、
 藍色の芝生の上にそっと置いて
 僕は
 ピッチを、
 後にする。


 Ciao Totti!
 こんにちは、敗北。



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2002/09/03 ver 1.08

2002 FIFA WORLDCUP KOREAJAPAN
決勝トーナメント1回戦 2002/06/18 韓国・イタリア戦に寄せて 


自由詩 『Ciao Totti!』 Copyright 川村 透 2003-12-23 22:27:59
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