箱から出してやる
Monk



スパゲッティを茹でる日曜午後
鳴り響く玄関ベル、開かれるドア
宅配の青年は箱をひとつ手渡し「お届けものです」
差出人はない
質問をする間もなく機敏な動作でドアは閉じられる
去り際に「良い休日を」と


宅配人は最小限の動作で仕事をこなした


箱はキッチンテーブル上に置かれる
差出人は不明のまま
シンプルな包装
シンプルなリボン
側面には手回しハンドル付き
回すと箱の上面が蓋のように開く


仕掛けは十分に施されてある


ハンドルを回す選択がなされる
徐々にあらわになる
箱の中には小男
額に三段じわのある小男のあぐら
あんまり友達にはなりたくない全体的に緑色の小男のあぐら
蓋が開ききるのと同時に小男の口が
ここでニヤリ、だ


「箱から出してやる」


ダミ声が響いた
つけっぱなしのテレビがドッと笑った
小男は得意げな顔
しわが深いあまりにも深く
僕は「間に合ってますから」と丁寧な手つきで
ハンドルを逆に回し蓋を閉じる


良い休日を


一流のジョークについて考える
図書館の英米文学棚の著者名アから順に思い浮かべる
ジェフリー・アーチャーの名言
10分あれば10のショートストーリーを思いつくよ僕は
そういえばスパゲティはすでに台無しなっている


日曜午後の予定について


うどんのようなスパゲティを箸で弄びながら
昨晩買った新型留守番電話の取扱説明書を読む
不明であるままの差出人についてだが
これはそのうち電話がかかってくるだろう
相手は見知らぬ女性で
おそらくシンプルなワンピースを着ていて
どう?気に入っていただけたかしら
と一言目に言うだろう


少なくとも10分程度は黙って待つ必要があるということ


壁と天井を見渡す
ここが箱の中であるというのも言われてみればそう
かもしれない
現時点ではこれくらいの考察でよい
さて、
立ち上がりテレビのスイッチを切る
同時に箱の中の小男がくしゃみを一つ

そして案の定、電話のベルが鳴る



未詩・独白 箱から出してやる Copyright Monk 2005-08-20 21:23:32
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