爪を摘む夜
Fujiwara Aki

 
 未練が忍んで 訪ねる夜は
 畳の部屋で 灯り おとして
 膝を立てて 俯いて
 女が爪を摘むのです


 ちぎれた身の内一つのものの
 行方さえ 問えぬよう
 男の居場所を 問わぬよう
 我が身の先を摘むのです


 痛みに無縁なぶんだけに
 懐かしい曲を流し
 心の中で血を流し
 一つ一つ摘むのです


 薄笑いを浮かべながら
 誰かの背中を刺せるよう
 己の魂を抉れるよう
 先を整え摘むのです


 また、月が満ちる頃
 忘れきるまでくり返し
 同じ夜をくり返し
 女は、爪を摘むのです


自由詩 爪を摘む夜 Copyright Fujiwara Aki 2005-08-19 13:17:32
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