シンディ
クリ

シンディのお勤めは6時から12時まで、『クリスタル・パレス』
お酒は弱いからいつもヘロヘロになって帰って来る
新聞も取ってないしワイドショーしか見てないから
話題と言ったらお客さんに合わせるだけの薄っぺら
もともと頭の回転がいいというだけで好かれてきた
足とお尻はきれいと言われるけれど胸が小さいし
斜視が魅力なのに自分ではそれがコンプレックス
誰も好きにならないように構え続けていた
何度も堕ろしたせいでもう妊娠することはできなかった
だらしない男たちばかりだった理由は自分が悪い、と
そういう男を好きになってしまう自分が淫らだからと
(最後の男にそう言われたから)信じ込んでいた
美人だったから店を探すのは容易かったけれど
同じ場所に1年通い続けることはなかった
そうしてシンディはどんどんむしばまれていった
からだと、たましいと

彼は、シンディを求めなかった
いや、求めていたのだろうが、ただ会話するだけだった
彼は話し、それよりもっと聞いた、彼女のことを
彼といるとシンディは、話さなくていいことまで喋っていた
とても嬉しかったけれど、同時に不安だった
彼女を抱こうとしない彼のことが、恐かった

ある日、少し早く起きた午後(!)、コンビニで彼と会った
素顔だからと照れると、十代に見えるよ、と彼は言った
去年まで十代だったからそれもそうだけど
喫茶店でお茶とパンプキンパイをごちそうになった
店とは違い、彼はほとんど喋らなかった
でも偶然(今まで気づかなかったほうがおかしいけれど)
彼が結婚しているらしいと分かった
その夜、彼女は店を休んで部屋で酒を飲んだ
吐いたあと、便器にもたれてそのまま眠った

次の日、店に彼がやって来たけれど、一言も話さなかった
自分でもよく分からないまま同僚に絡んで荒れた
マスターが「今日は上がっていいよ」と気遣ってくれた
まだ体調が悪いんだからと、優しかった
着替えてドアを開け、タクシーを待った
ようやくつかまえた車が停車するのと同時に、彼が呼んだ
シンディ
慌ててタクシーに乗り込もうとしたとき、かたっぽの靴が脱げた
シンディ、待って
無表情を装って運転手に行き先を告げる
シンディ、シンディ

君の、ほんとの、名前を、呼びたいんだ

何日もたって彼女は、またコンビニに行った
彼は、シンディの靴のかたっぽを持って待っていた
おはよう、シンデレラ
バツイチの中年の王子様でよかったら、踊ってくれますか?

彼女は怒って、笑って、泣いた

               Kuri, Kipple : 2005.08.17
Mに


自由詩 シンディ Copyright クリ 2005-08-17 03:06:03
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