夏の死
有邑空玖


夏の空は不必要に青過ぎて
まるで現実感がない。
蝉の不協和音も陽炎も
在り来たりの遠さでしかない。
立ち止まって振り向いても
君が居ないのと同じように
希薄。


印画紙に切り取られた僕らは既に
夏の骸に過ぎないのだ。
手を伸ばしても届かない
水底の月に似て。


 そう云えばね、
 一筋向こうの煙草屋の長男は
 昨年の夏に海へ行ったまま、
 帰って来られなくなったそうだよ。
 家の者はそれ以来、
 魚を口にしなくなったらしい。
 彼の夏雲のように白い頭蓋骨は、
 きっと今も底で笑って居るのさ。



魂はいつも空をゆく。
あの青い硝子を割ろうとして
どんどん遠く離れてゆくのだ。
そして二度と戻って来れない。
君も
君を失った僕も
僕を失う誰か、も。


今 空をゆくあの飛行機が墜ちて来たら
この夏は終わるだろうか?



自由詩 夏の死 Copyright 有邑空玖 2005-08-16 23:25:19
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