月と渡辺さん
松本 涼

激しい睡魔に襲われながら三日月は
いっそ雨になれば良いのにと思っていた

軒先でギターを弾きながら渡辺さんは
一昨日見た夢を何とか思い出そうとしていた

渡辺さんの「246M」をMDで聴きながらキリカは
山手通りを家まで自転車で走っていた


まだ
雨は降らない


三日月はとうとう睡魔に負けて
深い眠りに落ちていった

渡辺さんは鼻歌のように
思い出しかけの一昨日の夢をノートに書きとめていた

キリカは家に着きシャワーを浴びながら
生まれ変わったら虫になりたいと考えていた


風が湿る


深い眠りの中で三日月は
知らない星で虫として生きていた

書きとめられた一昨日の渡辺さんの夢は
歌詞になろうとして繋がったり消えたりしていた

虫としての一生をどう過ごすか考えて
キリカはその夜一睡も出来ずにいた


朝が近付く


眠りの中降り出した大雨の下で三日月は
虫として溺れながら新鮮な喜びを感じていた

完全に夢を思い出し歌詞にした渡辺さんは
その歌に「月の子守唄」というタイトルを付けた

キリカは窓から薄くなる三日月を眺めながら
虫となって死んだあとは唄うたいになろうと決めていた


渡辺さんは唄う

キリカが微笑む

三日月が目覚める





雨だ










自由詩 月と渡辺さん Copyright 松本 涼 2005-08-15 21:39:49
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