満水の夏
望月 ゆき

空が割れて
夏で満たされたプールで
泳いでいる
さかなのアンテナで
誰とも触れることなく、すり抜けて
泳いでいる
すれちがう誰もさようならをうたわない


体の中心がどこなのか
わからなくなって
ときどき ゆらゆらしながら
不安定を保っている


まだ泳ぐことをしなかった頃は
バスに乗ったり
ときどきはハンドルもにぎった
縦列駐車が苦手なばっかりに
交差点をいく度も横切ったりして
余計に走った
前髪がじゃまだからね、って
あの人が笑って
わたしはすこし泣きそうになった


空の裂け目に立って
満水の夏へ
水しぶきもたてずにダイブをする
そんなことばかり、じょうずになった


プールの底には
国道がひろがっていて
交差点のずっと先にある、だいだい色の
「Uターン禁止」の道路標識だけが
まぶしくふくらんで
目に飛び込んでくる




きょう、髪を切りました



自由詩 満水の夏 Copyright 望月 ゆき 2005-08-15 07:41:25
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