記憶
銀猫

それは明け方病院からの訃報

病の床にあった父親は
生命を生きることから開放され
静かに去ったという


今を生き残るものたちは
悲しみはさておき
思い出話を必死にかき集めるが
肝心の良い写真が無い


アルバムを探す
ネガフィルムの平たい袋を漁る
挙句金庫を開いて通帳なんぞにゆきあたる


しかし写真は出てこない



(そうだもっと探すが良い)



結局葬儀を飾る一枚は
町内会の旅行で撮った集合写真の切り抜き
残されたものは初めて重要な事実に気付くが
時既に遅し



(そんなものはどっちでも良いのだ)
(それよりわたしが生きていたことを)



つつがなく葬儀の行程は終わった



(それよりわたしのことばや仕事を)
(覚えておいて欲しいのだ)



(わたしが頭を撫でた感触をおまえは覚えているか?)
(わたしが叱った行いをおまえは覚えているか?)



静止するもの
まだ先へゆくもの




一瞬にして離された世界への唯一のアクセスは




記憶




自由詩 記憶 Copyright 銀猫 2005-08-14 13:14:32
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