ひめりんごたちへ
たりぽん(大理 奔)

蘭州を出発してからもう2日も経つが
鉄路は大きな曲線をいくつか描いて
岩の転がる砂地と、とうめいな蒼色の空
それだけの風景はいっこうに変わる気配がなく
ホウロウのカップで
開水に粉コーヒーを溶きながら
時計を見ても
あまり意味がない

ヒマワリの種も食べ飽きたし
上海土産の乾麺も食い尽くしたので
ウイグル人の少年から
袋ごと買った林檎を食べはじめる

掌にすっぽり入るほどちっちゃくて
でも、濃密で芳醇、そのままの林檎だ
はるか天山のふもとで収穫されるのだと聞く

津軽にしても天山にしても
林檎というものは
過酷な世界の住人だ
その実に命の全てを込めながら

   屈強な魂が私もほしい
   孤独も砂嵐も地吹雪も乗り越えて
   生きるという信念を宿したその
   やさしい果実から

林檎をにぎりしめて
不覚にも涙ぐんだ


「そんなに美味しいか」

敦煌出身だという老人が
これもどうぞと笑顔で
ひとつ

ひめりんごをさしだす

列車はまた
大きな曲線を
描いて


自由詩 ひめりんごたちへ Copyright たりぽん(大理 奔) 2005-08-14 01:04:51
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