テレビ電話が普及しない訳
宮前のん

テレビ電話というものが発明され、商業的にCMに登場するようになってから久しいですよね。
原理的には簡単なものだと思うし、遠くにいる友達や恋人なんかと顔をつき合わせて話ができます。
「離れて住んでいる孫の顔をテレビ電話で楽しむ祖父祖母」というのは、テレビ電話のCM内容のお約束です。
ネットがブロードバンド主流になってからは更に加速度的に普及しても良さそうなものです。
だけど、私の周りでは少なくともテレビ電話を購入したという話を全く聞くことがありません。2年ほど前にテレビ電話付き携帯電話も発売されましたが、普及率は今一つらしいです。これほど携帯電話が普及し、メールや写メールを利用する人は多いけれど、動画機能を利用する人が数パーセントに止まっている、という記事にも反映しているように、実際、私の周囲で使っている人は一人も居ません。
http://japan.internet.com/research/20030313/print1.html

医療や介護の現場で、医師が居ない離島なんかで診察の代わりにテレビ電話診察を島あげて行っている、というニュースを前に見たことがあります。大きな会社なんかでは大阪と東京の支店長同士がテレビ電話会議なんかをやったりもしているのかもしれません。けれど、公共の場で普及はわずかに認められるものの、個人の家でテレビ電話を使っているのを、私は未だかつて見たことがないんです。

よく、科学は夢の結晶だと言われます。
月へ行くことを望んだ人類は、数十年後にアポロを月へ飛ばしました。
宇宙旅行を夢見た人類は、さらに数十年後にスペースシャトルを地球へ帰還させました。
大昔、私が小学生だった頃に、ドラえもんのアニメで未来のシーンには必ずテレビ電話が登場していました。
だから今、技術的にも難なく出来そうなテレビ電話が、なぜこれ程までに普及しないのか、研究者たちは不思議に思っているかもしれません。

でも、消費者はみんな知ってると思います。
テレビ電話が普及しない理由。それは、
「相手に見せたくない顔や場所、姿だってあるんだよーだ。」
これにつきるんじゃないか、と思います。

家の電話、あるいは寝室から携帯電話を友人や恋人にかける時、皆さんはどんな格好をしていますか?
私は大抵、夕食後にお風呂に入ってくつろいで、Tシャツに短パンでボサボサの髪の毛でスっピンです(笑)。
大学時代、顔に真っ白けのパックを張り付けたまんま、恋人に「うふ、今お風呂上がりなの(はぁと)」などと言ってたもんです。(嘘はついていませんよっ)
忙しすぎてしばらくお掃除していない、むちゃくちゃに散らかった寝室のベッドの上に寝そべって、髪の毛にカーラーを何個か巻いて、寝そべりながら「ねえ、今度のデートだけど」なんて電話したもんです。

こんな姿も部屋も、相手には見せられない(爆)。

だからテレビ電話は、公共の場所でしか普及しないのだと思います。
プライベートにくつろいでいる場所には、そぐわないのです。
少なくとも、家族以外の人には見られたくない姿ってあると思うのです、それを研究者は解っていないのではないか、と思うのです。
1998年か99年に出された「テレビ電話最前線」という郵政省の報告書では、ファクシミリが低価格化したのと反比例して各家庭に普及したことを例にあげ、テレビ電話が6万円台になれば、各家庭への普及率は2005年には25%前後になるだろうと予想していました。ということは今年、4家庭に一つ、フアックスと同じようにテレビ電話もあるという計算になります。でも、それってものすごい読み間違いだと思いました。
私なら、もし出られないカッコをしている時に電話がかかってきたとして、着信表示の番号が大好きな彼氏だったら、「ごめん!化粧するまで待って!」と言いたくなると思うのです。
浮気デートしている旦那さんは、デート中に奥様から電話かかってきた時に、テレビ電話付き携帯だと言い訳できないと思うのです(笑)。

電話を通して投げかけられる言葉や音。それは人の想像力と創造力を刺激します。
相手の状況や顔や姿や場所が見えないから、想像するしかないのです。
たとえば振り込め詐欺なんかは、その人の想像力をうまく突いた犯罪だと思います。
だからテレビ電話の方が情報も確かだし多いし、その方が犯罪なんかに巻き込まれにくいかもしれません。
電話から聞こえてくる、相手の声色、息づかい、後ろから聞こえてくる雑音、音楽、人の声、車の音。
それらを総合し、判断し、自分の都合のいいように想像し創造しながら会話している。
私の友人で、彼氏と面と向かっては緊張してしまい、電話だとしっくり話せると言っていた人がいました。
恋人からの電話で、相手の優しい顔をキスを想像し、より甘い声で会話することもあるでしょう。
あるいはそこから秘密の匂いを嗅ぎ分けて、疑い、妄想し、嫉妬することもあるかもしれません。
でも、そこにはドラマが生まれます。想像と創造によって生まれたドラマです。
私は、見たままの情報の確かさや多さといったメリットよりも、言葉と音から相手や状況を想像し創造した方が、遥かにドラマティックで詩的だと思うのです。


IPテレビ電話というのも登場したようですが、たぶんこれも公共の場向けだと思います。
http://www.2shotlive.com/lcdo/data/detective/1093645988.html
http://www.academyjapan.co.jp/

それはそうと、携帯電話でテレビが見られるサービスが2006年に始まるらしいです。
こっちはなんだか、普及しそうな予感がするのですが、どうでしょうか。
http://1seg.jp/modules/icontent/index.php?page=5


散文(批評随筆小説等) テレビ電話が普及しない訳 Copyright 宮前のん 2005-08-13 22:24:37
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