蝉の臨終
服部 剛
降りそそぐ雨に濡れた道の上
白々と曇る空を仰向けでみつめる
一匹の蝉
七日間の命を一心に鳴き続けた
体はすでに白く濁りはじめ
六本の細足は宙に悶えている
しゃがんで じっと 覗きこむ僕は
傘を閉じた先っぽで そうっと 茶色い羽に触れる
「 じじじじじじじ・・・! 」
最後の力を振り絞った
鳴き声の後の静寂
「 そのままに・・・しといておくれ・・・ 」
凝視する巨人の僕に訴える
黒く小さい二つの瞳
立ち上がり 傘をさして 後ずさる
道の上に仰向けのまま小さくなってゆく
一匹の蝉
白く濁った体の内に
今にも消えそうに明滅する 命の灯
只白々と広がる空の向こうに
ぼんやり滲む天をうつしてほのかに光る
黒く小さい二つの瞳