森の風景
嘉野千尋
わたしの中に森が生まれたとき
その枝は音もなく広げられた
指先から胸へと続く水脈に
細く流れてゆく愛と
時おり流れを乱す悲しみ
わたしを立ち止まらせるものを、
そしてわたしを困惑させるものを
あなたは躊躇わずに愛と呼んだ
愛のために闘った日々があり
愛のために別れを告げた朝があった
そして握り締めた掌に残された、
わずかな、わずかな
わたしの中に森が生まれたとき
その果実は実るべくして実った
枝先に実ることだけを良しとし
何者にも奪うことを許さなかった
わたしは真夜中にそっとその実に歯を立てる
あなたは微笑みながら樹の下で
わたしが果実を投げ与える瞬間を待っている
あるいは偶然落としてしまうことを
そしてあなたは躊躇うことなく繰り返すだろう
それは愛なのだと、これは愛なのだと