空の涙
服部 剛

仕事帰りの自転車に乗り
ふらふらと重いペダルをこぐ私を
野球帽をかぶった男の子が追い抜いてゆく
あまりにもまっすぐ走る恐れを知らない背中
暗がりを照らす街灯の立つ角を曲がって消えた

早朝のひとすじに伸びる路面の先に
昇る朝日へと向かって走っていた
遠い日の私

夜の歪んだ道のりをとぼとぼと
仕方なく歩く
今の私

( いつの間に
  私は背後ににやける影を負い
  大人の仮面をかぶることを覚えたのだろう・・・ )

( 愛もなく女を抱いた夜があり・・・ )

( 心無いつくり笑いで
  偽りの手を病者に差しのべた日々もあり・・・ ) 


今夜もふらふらと自転車に乗り 雲に覆われた夜空を仰げば


「 かえれ、かえれ、こどもにかえれ・・・
  かえれ、かえれ、まっすぐみつめるすんだまなこに・・・ 」


何処かから聞こえる にごった瞳の彷徨さまよびとへの呼び声


夜の雨空高くから 私の頬にひとしずく 冷たい涙が落ちてきた 





自由詩 空の涙 Copyright 服部 剛 2005-08-11 21:39:30
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