なにもない、海
霜天

もう、ここも夕暮れて
短い夢のあと
ひとつ、ふたつ、みっつと
呼吸を数えていく
世界はまっすぐで、明日へ向けて良好で
目覚めの後の、定まらない視線で
遠く見えない、海を見ている


なにもない海、を見たいという人
波の音も聞こえない街を吹く風は
ごう、と音を残しては
ここに、見せない海の気配を
耳の中に置き去りにしていく
なにもない、海を見たい
指差してはみるけれど
帰るには少し、遠いかもしれない

夕暮れを掻き分ける
S字型のカーブを
ペダルを踏み込む強さで抜けて行く
ごう、と残されるだけの海を
指差しては、消えていく人
その先は空だったかもしれないけれど
そこへは帰らなければならない
ような気が、して


ざわめくもののない
鏡のような水面
そこを歩く人を、見つけられる気がして
ここも夕暮れ、て
世界はまっすぐで、明日へ向けて良好で
いつもの部屋、もう一度目を閉じながら
なにもない海の遠い遠い音を
静まっていく街で

もう一度
もう一度、と


自由詩 なにもない、海 Copyright 霜天 2005-08-10 02:22:39
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