祐介と沙弥香(一応恋人同士)



何時の間にか
歩みの速度が遅くなっていたことを
実感出来る存在

歩幅を合わせて、いつも
より、長く保ち続けたいものだから 尚更


変な話だよ
小学生の頃なんて、意識し過ぎる余り
離れて歩いてよ、と
夕暮れの下校 2人きりの通学路
田んぼ道
曲がり角で、影だけは手を繋いでた


恥ずかしい、だなんて
今時
手も繋がない彼
黙って、後ろにつんだってた
それでも
待ってよ!と
言ったことも 思ったことも無い
丁度いい距離で
保たれているから
まるで
首輪のいらない、犬との散歩のよう


長年連れ添った
夫婦ってわけでもないのに
ろくに、名前ひとつ呼び合った記憶も無い
それでも求め合う
無くした指先を拾うかのように、キスをして
手紙をポストに投函する感覚で
ひとつになって
事が終わって

不思議なのは
只、抱き合ってテレビを見ている時
寄り掛かっている背中と
受け止めて お腹の上で組まれる指

この状態が
一番、アレに近いような気がする
止め処無く 落ち着いて
心から、繋がっているみたいで

だけど、アルコールが足りないと
それすら


只、同じ部屋で
こたつに入って好きなことして



そこにあるのは、安堵と温もり
只、傍にいるだけで




傍に、在るだけで





らしいこと、ひとつしていないけれど
しいて言うならば、
居心地の良さに、ついつい住みついてしまった
野良猫同士


そのうち、どちらかが
情熱的な恋愛に目覚める相手に巡り遭えたなら
夢見がちに飛び立ち、それでも
ホッとひといき、つく為に
取り止めもなくふらりと立ち寄って
気が向けば
求め
またひとつ、指先を拾うかのようにキスをして
手紙をポストに投函する感覚で
コトン、って響きで

居残るも居なくなるのも、自由




でも、きっと
還暦を迎える頃には
溜まった手紙を、郵便やさんが
届けに来てくれる

拝啓、祐介様。
拝啓、沙弥香様。



別に、住所不明で戻って来たっていい
その時には、静かに
あの頃の2人を思い浮かべられるから
眠るように読み耽り
そのまま、天に召されればいい





只、愛しい。
存在、

愛しいのだ。






貴方じゃない。 君じゃ、ない。



自由詩 祐介と沙弥香(一応恋人同士) Copyright  2003-12-20 09:47:32
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