一月八日 白山郷共同斎場にて
山田せばすちゃん


骨壷をもうひとつと
父親は頼みました

寒い寒い一月の斎場で
白い骨になってしまった
母親を乗せた
鉄板をみんなで囲みながら

葬儀屋が用意してくれたのは
大きな骨壷がひとつと
小さな骨壷がひとつ

小さな骨壷には
指の骨や歯やのどの骨を
大きな骨壷には
大きな骨を

それでもまだ母親の骨は
鉄板の上に余りありました

「そりゃあここにもおいてはありますよ」
斎場の人が少し困ったような顔で
答えました

それから僕を部屋の隅にそっと呼んで
「お父さんのお気持ちはわかりますが
  そんなにいっぱい持って帰られても…」

「好きにさせてやってください」
と答えた僕は
それから
鉄板を覗き込むようにしながら骨を集めようとする
父親の背中を見やりました

       お母さん
       今年の夏も暑くなりそうな気がします

       あなたが死んでしまったときから
       お父さんの世界は止まりました

       お父さんはいまだにずっとあなたと一緒です
       あなたの歌声の残ったカセットテープを繰り返し
       音が止まってしまうときには必ず
       泣きながら寝入ってしまいます

       僕の子供たちも
       弟の子供たちも
       誰一人も
       あなたがいなくなった事実を
       まだちゃんと受け止めてはいません
       うちの次男坊はあなたの祭壇に
       見よう見まねでお焼香をしながら
       「おばあちゃんが早く帰ってますように」と
       お祈りしていました

       僕はすっかり生花のにおいが嫌いになり
       妻は父親に優しくなりました


大きな骨壷二つでも
母の骨の全部は
納まりませんでした

それでも父親は
ようやく満足したのでしょう

遺影を僕に
小さな骨壷を弟に任せて
自分は骨壷を二つ両脇に抱えて

それで母親は
すっかり我が家に戻ってきました

かさかさと鳴る
小さくて軽い母親は
来月
父親の立てた墓に入る予定です


自由詩 一月八日 白山郷共同斎場にて Copyright 山田せばすちゃん 2003-12-20 02:13:11
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