或る夏の散歩道
成澤 和樹

ロクに舗装もされていない田舎道
透明な光線を遮って顔を上げる

グルグルと旋回している天上の鳶
彼らも疲れているのか高度は低かった

ガタガタの足腰を癒すように詠う

 みちるやちるや
 満ちるや散るや
 ひらひらひとひら
 向日葵ひとひら 踊るひらひら

ふとすると、鳶の羽根が一枚、僕の背中に
重力が半分になった
足取りも軽くなった


 旅を続けよう。


ガタがきている水車小屋の傍ら
小夜の灯りすら眼に染みる

ギイギイと音を立てながら回転する歯車
大昔から回っていたのか速度は低かった

カラカラの喉を潤すように詠う

 さゆるやさるや
 冴ゆるや去るや
 ゆらゆらながるや
 月光ながるや 弛むたまゆら

ふとすると、月の礫が一滴、僕の口に
透明度が倍になった
喉も潤った


 旅を続けよう。


浸透してゆく
繰り返し巡る晩夏

 みちるやちるや
 さゆるやさるや
 ひらひらひとひら
 ゆらゆらたまゆら

こんな麦藁帽子の日々なら
いつだって走り出せる
歩いたらきっと
歩幅が届かないくらい

 駆けて、飛んで

足跡なんて、残らない

 みちるやちるや
 さゆるやさるや
 ひらひらひとひら
 ゆらゆらたまゆら

こんな半袖一枚の日々なら
いつだって笑ってられる
黙ってたらきっと
涙が出てしまうくらい

 飛んで、はしゃいで

絵日記なんて、残らない

 みちるやちるや
 さゆるやさるや

或る夏の散歩道
遠く消えゆく祭囃子
眼を瞑って歩くとしても
追憶(おもいで)になんか、頼らない


自由詩 或る夏の散歩道 Copyright 成澤 和樹 2005-08-07 21:01:51
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