プルシャプラの石工
佐々宝砂

練菓子のなかの干あんずを探るように
俺はストゥーパのなかを探ってみた

縞瑪瑙がひとつ布に包まれてぽつんとあった
そんなものだそんなものなのだと
以前誰かに聞かされてはいたのだけれど
俺は落胆せずにはいられなかった
しかし縞瑪瑙に頬ずりせずにはいられなかった

仏陀よ
俺は知ってしまった
貴方がストゥーパに眠ってはおられぬことを
縞瑪瑙は尊い石だが
貴方は縞瑪瑙ではあるまい貴高い方よ

仏陀よ
俺は貴方の御姿をいちども見たことはない
しかし俺は夜毎夢に見る
貴方の貴い顔を
貴方の貴い御姿を

俺はつまらぬ石工だが
幼い頃から石を削る術を学び
人の顔も山羊も牛も空高くそびえる山も
彫ってあらわすことができる
だとしたら仏陀よ
俺は貴方の御姿をもあらわせはしないだろうか

このようなことを考える俺は不遜だろう
不遜なのだろう
貴方の御姿を描いてはいけないと
それは禁じられたことなのだと
俺は教えられてきた

しかし仏陀よ
俺はどうしても彫ってみたいのだ
夜毎の夢にあらわれる貴方の御姿を

どうか俺の不遜を許したまえ
俺は俺の力の限りわざの限り鑿をふるい
貴方の御姿を眼に見えるものとしたいのだ仏陀よ

ストゥーパに納められた偽の骨よりも
俺は貴方の御姿をこそ残したいのだ仏陀よ
俺の名など残らない俺はつまらぬ石工に過ぎない
しかし仏陀よ
貴方の御姿は残るだろう
千年の後も
そのまた千年の後も


自由詩 プルシャプラの石工 Copyright 佐々宝砂 2005-08-02 22:25:20
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