アフレル オト
千月 話子

干乾びたのだろうか 私は静かに干乾びていくのだろうか

風の強い静かな午後 ほら、耳の裏側で
ガラスの器 丸く並ぶ石粒 揺れる水
指を離す ゆびをはなす 知っているのに・・・
鳴る音は飛沫 残るのは欠片
そう、あれは音楽だった 
騒々しいまでに体に溢れる 音楽だった


例えば暗闇のフラッシュバック
手を伸ばして その先にある膨らんだ魂にいつもいつも触れたかった
肉弾の前へ進め!
隊長を失った歩兵の見る夢は 光りに満ちたカリスマ
ほら、空の無い暗い箱の中に居るだろう 高い位置から微笑んで手招く
歩兵よ!今、あなた達こそ神々しい程に輝いているではないか
紅潮した横顔から笑みが溢れ 見出した者は命令を下さない
もう、生を楽しめばいいのさ。


ある日、私のカリスマは 地に降りて 酒を飲み
とろけそうな目を薄く開いた
膝枕をした私を 下方から見上げて
「詩を詠んで下さい。」と おっしゃった。夢見るように
その時の 私の未熟な詩など
仮にも芸術家のあなたに聞かせる事など出来る勇気も無く
白々しく微笑んで その金色の髪をひと撫でするだけだった
今ならば、「いくらでも詠んであげますよ。」と
傲慢に言えたかも知れない。ふふふ、本当に傲慢な女だ。

まだ実を付けないブルーベリー畑と緑の田園風景
あぜ道を汚れた機材車が走り抜ける (ラジオもCDも聞けないなんて)
薄暮れない色の 男と女を乗せて
耕運機がすれ違い様 日常を落として行くのだ

そして、黒い服を着た私は
夜のエレクトリカル・パレードで魔女になった。
 可愛い子供よ 可愛い歌を聞きなさい


全国のライブハウスのロッカーに置き忘れた音楽が
期限切れで消えていっても 残る結晶
それは、四角い箱の隅に細かい砂埃となり いつでもそこにあるのだ


ある晴れた朝、感動を伴う私を知らない男が抱きしめた。通りすがりに
何故?と問うた 「解らない・・・」と答え、笑みながら行ってしまった
ああ、、多分 あの頃の私は 音楽に満ち
満ちて溢れそうな幸福をこの体に 柔らかく含んでいたのだろう


そうして今、大音響を聞き尽した私は小さなオカリナになった。
もうあの音を 手を伸ばせば届きそうなあの音達を手放してしまったけれど
この小さな部屋に流れる曲を 囁くように歌おう。

フクロウの鳴き出しそうな濃い夜に
サヌカイトの石琴 心地良い高音 
風と共に 満たされた私が細く長く鳴くと
この体から 光りが四方に飛び散るのだ



干乾びる事の無い私を カリスマよ、見つめて下さい。









自由詩 アフレル オト Copyright 千月 話子 2005-07-30 17:56:33
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