今日生まれし者へ
黒田康之

私は夏雲のあるこの空に
人差し指を差し込んで
この青空の
その底にある
人肌の群青に触れようとする
そのぬくもりは昔日の
小さなおまえのぬくもりに似て
あわあわと崩れそうにゆれる
いつかのあの道端にあったひまわりは
その花弁の一つ一つから
昨夜の雨を落としていたが
おまえはただ前を見て通り過ぎていった
おまえの前髪は風に吹かれて
そのたび細い指でおまえはそれに抗う
聡明な額に汗がにじんで
群青を煮詰めたような黒い目でおまえは遠い街を見ていた
私はおまえの小ささや
弱さや豪胆さが今でも好きで
こうして夏の
台風が過ぎ去った日の空に
その空の底の群青に
こうして指を挿し込む
このわずかな幻想が
あの日のおまえの体温であり
白くて薄いおまえの肌だ
それでも今日おまえはまだあの街にいて
遠くが見渡せる南の窓から
ぼんやりと何かを探しているのだろうか
私は嘘つきにならないようにと祈りながら
おまえの熱に狂いそうになる
この夏の日に
おまえが生まれたこの夏の日に


自由詩 今日生まれし者へ Copyright 黒田康之 2005-07-30 09:19:35
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