有季定型春1
佐々宝砂

母と云ふ字は嫌ひ苺も嫌ひ







忘れな君いまここにあるこの菫

オランダの苺囓れば昼間の月

たそがれに水星の見え土筆つくし生え

春枕翼を持たぬ鳥が飛ぶ

猫の殿方とすれ違う春の宵

生きてゐる人に出会はず月おぼろ

薄氷うすらひや待ち人は人にあらざりき

ぬるむかたくなに巻く長き髪
 
春立つと水に言ひ聞かせてゐるよ

今宵死ぬ人は幾たり冴え返る

春愁や探偵のかげ十字路よつつじ

一滴の海が汝が目に春はゆく

春の雷まだ黙りゐる二人かな

涅槃西風ねはんにし背中に受けていざさらば

春立てり祈りの言葉知らずとも

墨の闇探し歩けり春の宵

鞦韆ふらここに子どものかたちしたるもの

さかるアンバランスな午後のお茶








ともし今宵も君は眠らざる


俳句 有季定型春1 Copyright 佐々宝砂 2005-07-30 04:50:40
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