有季定型春1
佐々宝砂
母と云ふ字は嫌ひ苺も嫌ひ
忘れな君いまここにあるこの菫
オランダの苺囓れば昼間の月
たそがれに水星の見え土筆生え
春枕翼を持たぬ鳥が飛ぶ
猫の殿方とすれ違う春の宵
生きてゐる人に出会はず月おぼろ
薄氷や待ち人は人にあらざりき
水温むかたくなに巻く長き髪
春立つと水に言ひ聞かせてゐるよ
今宵死ぬ人は幾たり冴え返る
春愁や探偵のかげ十字路に
一滴の海が汝が目に春はゆく
春の雷まだ黙りゐる二人かな
涅槃西風背中に受けていざさらば
春立てり祈りの言葉知らずとも
墨の闇探し歩けり春の宵
鞦韆に子どものかたちしたるもの
鳥交るアンバランスな午後のお茶
春灯今宵も君は眠らざる