青い火
とうどうせいら

  
ほら 見て
波の向こう
青い火が燃えてる
あれは きっと
妖精の燃えかす
薄い羽を残した空蝉のような


ダーリンはそう言って
私の肩を抱きました。
抱かれたその手は節くれた
仕事に疲れた歳月がありました。

私達 船に乗りました。
2人きり 白いヨットに。

  
そう 思い出した
波の下に
ピアノがあるんだよ
いつも そっと
魚の尾びれに当たると
ぽろ ぽろ 揺れるんだ


ダーリンはそう語り
目尻にしわ寄せ 笑みました。
今までに見たことのないその目は
少年時代を思わせました。

船に乗りました私達。
初めて買ったヨット 一度だけ。


夏の日の晩
ダーリンと私はくちづけを交わし
今始まった恋のように
何ごとか耳元でささやきました。

それはきっと年老いたダーリンが
終わりの日が近いことを
知っていたせい。

家の中に 灰皿や
     革靴や
     さびたナイフや
     丸めたズボンが
当たり前のように
置き去りになりました。


  
ほら 見て
波の向こう
青い火が燃えてる


ダーリンの
かつて指さした彼方に
見えているのは
闇ばかりで。

ただ 浮かぶのは
ダーリンのことだけが。


ダーリンのことだけが。












自由詩 青い火 Copyright とうどうせいら 2005-07-28 18:06:46
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