家路
千波 一也


買い物袋から
オレンジが転がったのは単なる偶然で

私の爪の端っこに
香りが甘くなついたのも単なる偶然で


果実が転がり出さぬよう
そろりと立ち上がった頭上に
飛行機雲を見つけたことも

そう、
単なる偶然


あの真っ直ぐな白さを残した人々が
どこへ向かったのかはわからない

でも、
きっと
そこには幸せがあるように思えてならない



オレンジの輪郭は瑞々しいまんまる

単なる偶然は
とても手のひらに優しいかたちをしているのだ



やわらかく匂い立つ、街路樹の横

風は優しく背を撫でる


私の家の待つ方角へ

風は優しく背を撫でる




自由詩 家路 Copyright 千波 一也 2005-07-27 15:46:24
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