音楽は
　けっして秘密を明かさない

　紡ぎ出す言葉の切実な求愛
　紡げない言葉の静けさに死ぬ今日

　拒むのはいつもヒト
　恐怖で憎しみで饒舌で

　美しいものは美しく
　醜いものもどこか美しく

　ただここにいることがすごくて
　私は私じゃなくなる

　かたちあるものを大気に溶かしたくて　
　名付けられたものを静けさに返したくて

　口は水を含んでなお渇く

　微量の毒は薬
　明るさに眩暈

　かつて
　愛と呼ばれしものを背負って

　男は戦いに血を流し
　女の血は新しい生命のため

　影は　記憶は
　深い闇のなかのつかの間の休息

　書かなくてもいいのにこうして書いて
　ひとりのひとに話すかわりに

　言葉ではないものが胸にもたれて
　岬へとつづく踏みつけ道