草棄原
木立 悟




空をゆく流氷が
原に立つ子の瞳に映る
旧い川が運ぶ黒い土
小さな光の波



いつの日か原に
何本も土の柱が立ち
やがて次々と倒れ
原を埋めていった

原はうねり
風にかたちを与えつづけた
埋もれていく自分自身へと
聞こえない音を運びつづけた

冬の白い黄金を過ぎ
川が様々なものを分断し
すべてが忘れ去られたあとで
棄てられた人々が集まり村を作った
中洲を拾い集めたような
草に見え隠れする村を作った

川底が黒くなってゆく間も
村を訪れるものはなかった
刈り手もなく草は高くなり
人々は見えなくなっていった
土の柱はくずれつづけ
原は静かに覆いつづけた
夜のはずれで震えながら
原と柱は重なりつづけた



原を歩む子は立ちつくし
想いをあざむく空を見つめる
分かれつづける川を
増えつづける中洲を見つめる



空は大きくほころびて
季節は重く雲を回す
川の終わりに
原の終わりにひろがる黒い土から
そこに住むわずかな人々のためだけに
今も鉄器が作られている







自由詩 草棄原 Copyright 木立 悟 2005-07-25 23:01:51
notebook Home 戻る