しっぽのある鉄塔
クリ

ひどく目立たない黄色のレンガ道を行くと
夏休みの少し手前に古い送電鉄塔が見える
陽炎虫が大発生した年の真夏のある日
一人の男の子がその鉄塔の下で感電死した
鉄塔からぶら下がっている電線に触れたんだ
鉄塔は人間が大好きで電線のしっぽを振ってしまう
会社の人が来て電線を切断しようしたけれど
近づくとギュランギャランしっぽを振るので
とっても危なくて無理な話だったよ
それどころか鉄塔がだんだん帯電してきたのさ
夜になると月もないのにぬもーっと光って
魔法のようにきれいだという噂が広まり
毎晩何百人もの人が集まるようになった
今度は酔っぱらいが感電して死んだんだ
半径50メートルが立ち入り禁止になり
送電がストップされることになった
取り壊して別の安全な鉄塔を作るんだって
送電鉄塔はだんだん光を弱めていった
見物しにくる人も少なくなっていった
会社の人は毎日帯電容量をはかりに来た
そのたびに鉄塔はしっぽを振ったけれど
それも日に日に弱々しくなっていった
台風が近づいていたある日とうとう
会社の人がいっぱい鉄塔の下にやってきた
ちょうど夏休みの最後の日だったな
電線を切断する準備がはじまると
そのとき少しだけきゅるるむと
しっぽが揺れたんだけどそれは
たぶん風のせい

           Kuri, Kipple : 2005.07.23
イメージをくれた「サトウ」さんに


自由詩 しっぽのある鉄塔 Copyright クリ 2005-07-23 00:06:14
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