てふてふと勇魚
紫乃


     てふてふが
     海を渡つてゐるのを
     飢ゑた勇魚が、
     ぢつと、見た
     食べてはいけないのだよと
     言ひ聞かせながら
 
 
         
     果てゆく、命
 

 
     或いは飲み込んでしまへば
     腹の中で生き續けるだらうかと
     多分に少女趣味な
     自己辯護を兼ねた夢想



     代として、慰みとして
     漂ふ塵のやうな生物を食んだ



     痛ひ痛ひと腹を押さへる事も出來ないまヽ
     我知らず空のてふてふを探す



     いつたい
     此の廣い空の何處に去つたのか
     此の廣い海の何處に散つたのか








               勇魚(いさな)……鯨の古称


自由詩  てふてふと勇魚 Copyright 紫乃 2005-07-21 21:15:53
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