堕ちてゆく客体としての私
佐々宝砂

堕ちる 堕ちる 堕ちる どこまでなんて知らない
視界は真っ暗ってわけじゃなくて
パチンコ屋のネオンやらスナックの看板やら
妙に見慣れた景色や知人の顔が通り過ぎる
おおい ウォッカ・ライム一杯ちょうだい!
って叫んでも聞こえないんだろうなあ
それにしてもこんなに深く堕ちてゆくのだから
いいかげん地球の裏側に辿りついてもよさそうだけど
私は まだ 堕ちてゆくらしい

堕ちながら 私は 気持ちよく ほぐれて ゆく
脚がはずれ 腕がとれ 頸が折れ
髪は抜け 眼はこぼれ 内臓は反転し
裏返った敏感な表面を光芒が愛撫する
なんという快感 誰もこんなのは教えてくれなかった
狂態どころじゃない 毀れてしまったよ

バラけたまま私は勢いを増して堕ちてゆく
散らばった脳髄がてんでに考えている
でも想像していることはたったひとつ
この墜落が終わるときに
いったい何が起きるだろうかってこと
毀れた身体を期待に震わせて
私は堕ちてゆく
衆人環視のなか
ピンクのライムライトに照らされて


自由詩 堕ちてゆく客体としての私 Copyright 佐々宝砂 2005-07-21 09:33:46
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