「梅の実」
刑部憲暁

あたたかい雨の季節にこがれて
梅の実は ほそ枝に寄り添い
みどりいろの葉陰を肌にうつして
いっそう深い みどりに染まりながら
かぜに ゆれていた

「あたたかい雨は いつになるだろね」
うるおいにみちた涙の粒が
夏をつげる雲の口から吐き出されて
カッと大地をたたく日々は
いつになるんだろ

木々の茂るみどり葉の奥の
陽射しもない暗がりで
梅の実は訳もなく
急に 去年のこの同じ日に この梢に
自分がいたことを思い出した

そんなに遠すぎる記憶は
よみがえるには あんまり重い
だから どうしてかと
わずかに首をかしげた刹那
梅の実は 枝をはなれた

あたたかい風が はっと気付いて
両の手を伸ばしたけれど
すんでのところで とどかなかった
やすらかな音が枝々に触れた
土にあるかないかの くぼみがなった


自由詩 「梅の実」 Copyright 刑部憲暁 2005-07-20 22:00:38
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