からっぽ
恋月 ぴの
失っても気にはしなかった たとえ何かを失っていたとしても 気にすることなく 明け方まで友と飲み歩いた ゴールデン街のお店を這出ると 朝の日差しがやけに眩しくて「太陽がいっぱい」だなんて 的外れに大声で叫んでは 友に大笑いされたっけ
新宿通りの古いビルの出入り口 守衛に追い払われるまで 寝ぼけ眼で座っていた お尻の財布にも ポケットにも 小銭すら入っていなかった それでも日々は確実に輝いていたし 将来の夢についてなら一晩中だって 友と語り明かすことが出来た
何時頃からだろう 少しづつ僕の中で何かが変わった いつもの街なのに何故かよそよそしく 馴染みの店がいつの間にか シャッターを下ろしていたり 馴染みのあの子もいつの間にか どこかのお店に移ったりして 街そのものが変わった事もあるけれど それ以外の何かが僕の中で確実に変わっている
5羽の雛があと1羽になっても ニワトリは平然としているけれど 最後の1羽まで失うと ニワトリは狂ったように雛を探すらしい もしかすると僕だって同じようなもの 失ったものはとてつもなく大切なもので たとえ取り返しがつかない事に気づいたとしても 今は気づかない振りをしていたい そんな結末 最後の最後まで知りたくないから