白炎
木立 悟




空に高く 灰にひとり
思い出の外へ繰り返すもの
夕暮れのない夕暮れを見る
銀の鱗の目に指をあて
器をめぐる光と火を聴く
底にはじける姿たちを聴く


波を走る白い炎が
しきりにからだに燃えうつり
私は恐れて泣くだけだった
熱も痛みもない笑みを
ただはらいのけるばかりだった


まぶしく消えてゆく道の
見えない姿
影だけの午後
歩むものの先へ先へと
光のかけらは跳ねまわり
かがやく鱗のかたちを照らす


石の街をめぐる雨
曲がり角から見える海
壁をのぼり
空に溶ける
双つの手に似た灯火の光


遠くを夢みる音があり
ねじれた明かりの内側から
歩み過ぎ去る背に触れる
暗がりの水
かわいた道
響きつづける響きのつづき
滴の窓から海を呼ぶ声
滴の数だけ海を呼ぶ声


静かに静かに目をひらく速さで
道は夜へと傾いてゆく
音は届き 波は届き
手のひらに 器に燃えうつり
私は私のかたちに燃えあがり
白い炎をくちずさむ







自由詩 白炎 Copyright 木立 悟 2005-07-14 17:40:55
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