フリースタイル4(たとえばカフェの一席で、もしくは私鉄の一席で)
チャオ

外出したくない気分で外出をする。街には騒音がこだましている。耳に入る沈黙は皆無で、屋内へ足を踏み入れたとしてもBGMが鳴らされている。僕はあくびをする。それから後頭部を偏執的に掻き毟り、すれ違っていく車を眺めた。

ある日の休日、いつの間にか山手線で六周していた。眠ること以外の快楽を見つけることが出来なかった。充実していたのか、老化を早めたのか今じゃ僕には分からない。流れていく時間に僕は必死にしがみついていた。それから、答えは出るのだと。

すれ違う風の物音が聞きたい。だるく、むくんだ足で前へ。歩道の自転車。歩道の子供。歩道に歩く犬や猫。歩道の男は太陽の光をさえぎる高架橋の下、排気ガスに溺れていく。

去年、スズメバチが、ベランダに大きな巣を作った。ベランダへの扉が封印されると、灼熱の猛暑が、エアコンなしのボロアパートに充満した。僕はそれで7キロ体重を落とすことになった。その頃、就職試験で書類審査に7度落ちた。1度だけ面接へ行った。最終的に落ちた。

階段を上り電車へ。私鉄に乗るための切符を買う。なんて格安なのだろう。僕は驚く。目的地までの値段を三度確認する。ずいぶん田舎者に見えたんだろうなどと思うと、少し有頂天になった。ホームへ向かいまた、周りをきょろきょろする。さあ、僕は田舎もんだぜ!
だけど、誰も僕を見ない。いい加減飽きた僕は、バックから本を取り出し読み始める。電車はまもなくやってきた。

箱根まで走ろうと思い立った。

箱根まで走る。国道一号線を西へ向かう。海が広がり、小さな人間の小さな視野が捉える砂浜には、永遠と思える波が行っては帰りを繰りかえす。群がる人。水着の人々。見慣れない景色に興奮した。
夕暮れ、人気のなくなった海岸線に犬を散歩しに来た夫婦が歩いていた。海は素敵だ。限りが無い。

電車に乗って時間を見る。僕は約束の時間に遅れてしまうことが分かった。携帯電話を取り出す。メールを入れる。電車は各駅に止まる。僕は座ったまま。

永遠や絶対。揺るがない言葉が好きだ。言葉自体がトリックスターのようにある出来事を嘲笑う。永遠の愛を誓った夫婦も離婚三回目。絶対の約束を破る親友。言葉は嘘をつけない。それほど言葉は無力だ。永遠や絶対はもはや、虚像に過ぎない。あらゆる人間の行為に対して言葉は意味を変える。嘲笑う。

電車を降りて電話をする。僕は歩く。てくてく歩く。信号も、交差点も、商店街も越えて歩く。日は完全に沈んでいる。それでも始まらな暗闇。光に埋められた町。音は鳴り続ける。僕は無言で歩く。てくてく歩く。

僕は永遠も絶対も存在して欲しい。それらの言葉が、ただのまやかしになってしまったとしても、もう一度純粋な言葉の意味を取り戻して見せるから。だから、僕に、まやかしであってもいい、永遠や絶対を与えてやってはくれないだろうか。何とか、ゆっくりとでも成し遂げてゆく。第一、永遠や絶対なんて、僕が死ぬまで分からないじゃないか。だから、僕に、その言葉を与えてやってはくれないだろうか。

小さなカフェにたどり着く。待ち合わせた人と席に座る。今日は外出日和だ。騒音も街灯も何もなくならない。時間は過ぎていく。コーヒーとジャスミン茶が運ばれると、小さな会話から笑顔が出てくる。今日は外出日和だ。


散文(批評随筆小説等) フリースタイル4(たとえばカフェの一席で、もしくは私鉄の一席で) Copyright チャオ 2005-07-13 15:26:30
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