夢の汽車に乗る人
服部 剛

時間ときの無い惑星の
始発駅で発車のベルは鳴り
無人の汽車は走り始める
満天の星空の下
砂丘の果てへと続く線路の上を
男は車窓から夜空に小さく瞬く地球を見ている

「無限の宇宙の片隅に浮かぶあの青い惑星に
 あの日、私は確かに産声をあげた
 歓び歌う天使が一通の手紙を
 生まれたばかりの私の枕元にそっと置いていった」

「地上で過ごした懐かしい日々よ・・・
 父も母も兄弟も友も恋人も・・・自分自身も・・・
 食卓を囲み微笑みを交わした日々は皆一瞬の夢・・・」

全ての想い出の場面を地上に置いて
男は独り夢の汽車に揺られて
未知への旅に出る
ポケットには
地上で生を受けたあの日
天使に預かった約束の手紙を入れて

夜空に青く光るあの地球ほしに住む
名も知れぬ全ての人の涙が光の滴となるように
夢の汽車に乗った男は今夜も
車窓から
両手を一心に組み合わせている

全ての人が人生の道を旅する背後には
果ての無い宇宙へと続く小さい穴が
誰にも気付かれずにひっそりと口を空けており
そこから彼の祈りは光となって
全ての魂に流れている

あの青い地球ほしの中で
男の愛したひと
長い間うつむいていた顔を上げ
胸に夢の種を抱いて
その愛しい顔を太陽に向けて
美しい花を咲かせ始めた

耳を澄ますと
今夜も宇宙空間にきらめく銀河の流れを走り続ける
汽車の音が遠くから聞こえて来る

 
  ガタン ゴトン・・・
   
    ガタン ゴトン・・・

       ガタン ゴトン・・・


車窓から
ほの白く光る詩人の面影は
今夜も黙ってあなたを見つめている

真夜中
詩人の生きる鼓動が・・・
・・・命の音が聞こえて来る 

   
  ガタン ゴトン・・・
   
       ガタン ゴトン・・・

           ガタン ゴトン・・・

















自由詩 夢の汽車に乗る人 Copyright 服部 剛 2005-07-12 00:01:44
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