遠、
ピッピ


影は何回も東の方向へ、ぼくとさよならをしたかったはずなんだ。
地面に転がったいくつものものたち、ごみばこ、人間、薄紅色の携帯電話、
全てが…なんか、倒錯している世界、素晴らしい世界。は、
フラジャイル、ということを、すっかり忘れていて、
お互いを壊し始める五秒前の静寂を、
いつも愛している。
伝えたいことのボルテージはいつもからっぽ。
レベル0のままの、それとも言葉なんかが何かを伝達してくれるのだろうか?
そこかしこのものがしゃべり出す。そうして、口の憂鬱。
「生まれ変わったら…」その後に続く言葉がない。
言葉を伝えきった口はいつか死ぬ。突拍子もない言葉、
突拍子もない物質のつながりで、世界はぶっ壊される。
そしてそれを、誰も待ってはいない。
ようやく真っ暗になって、影が正しい別れ方を覚え、
バイバイと大きく手を振ると、影は笑って絶望する。
(ぼくがそうするから。)
点々と続いた街灯を辿り、誰もいない駅に着くと、
そこには夕暮れの残したかすかに冷たい風が斜め23度を厳かに翔んでいく。
裏切るためだけの甘い言葉や、何かをなくすためのかわいらしい鍵を、
通るはずのない電車に轢かせて、残ったぐちゃぐちゃの残骸を見ながら,
夜は弱点でも知られたかのようにげうげうと咳き込んだ。


自由詩 遠、 Copyright ピッピ 2005-07-11 01:01:44
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