風にふかれて
恋月 ぴの
風の便りに聞いたんだけどさあ
20年も筆を折ったままだったおまえが
またぞろ詩を書いているんだってね
どうゆう風の吹き回しだか知らないけど
本棚一杯の現代詩手帳やユリイカ
荒川洋治やら訳の判らない詩人達の
詩集を総て投げ捨てたおまえが
また詩を書き始めたなんてねえ
遺書のつもりで書いているんだか
過去を振り返りたくなった年頃なのか
はたまた何やら書かずにはいられない
叫ばずにはいられない不幸でも
おまえの身に起こっているのか
夕闇迫る川辺に二人座って感じた
葦原を走る風はもう二度と吹かないし
赤く染まった水面を割って跳ねる
鱒はおまえの手をするりと抜けて
くねくねと身を躍らせ消えていく