オレンジジュース
チアーヌ

「これあげるよ」
図書館の庭で偶然出会った少年
名前は最後までわからなかった
夏休みはほぼ毎日図書館に通った
自転車で5分
他に行く所なんかなかった
市立図書館は涼しく
毎日毎日延々とビバルディが流れていた
ビバルディは
「同じ曲ばかりを何百曲も作った」と
同時代の作曲家にバカにされたそうだ
ぐるぐる館内を回りながら
読みたい本を溜め込んで
少し読んで
あとは借りて帰る
図書館の庭は
何の変哲もなくて
背の低い潅木と
将来は大きくなるであろうトウヒの類を
庭師がバランスよく植え込んだような
どこにでもある公共施設の庭
そんな庭の
ちょっとした日陰の石垣に
少年は座っていた
スケッチブックを抱えて
わたしは思わず近づいて
後ろから絵を覗き込んだ
単なる好奇心
わたしは中学生だったけど
少年は小学生に見えた
涼しく冴えた目の色
すらりと伸びた手足
わたしはなぜかドキドキした
少年は
不意に立ち上がって
近くの販売機でジュースを買ってきた
「上手だね」
そう言うと
少年はジュースを一本くれた
なんで買ってくれたんだろう
そう思いながらわたしはジュースを飲んだ
オレンジジュース
冷たくて
おいしかった
少年とわたしは
そのあと
庭の木の陰に隠れて
キスをした
次の日も
その次の日も
夏休みが終わるまで
毎日
キスをした




自由詩 オレンジジュース Copyright チアーヌ 2005-07-06 19:05:58
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