踊り子の前の約束
木葉 揺

冷凍庫でカチンカチンに凍らせておいた契約書3枚、両手で握りつぶす。
パリンパリンと気持ちのいい音が薄暗い部屋に響いた。
「ふふふ」
ipodを準備して、チラシを見ながら新しい消費者金融に電話をかける。
「もしもし、そちらへ今から伺います。ところでぶどうの種類は何が好きですか」

ハンコと傘を忘れずに・・・なんて一人で呟きながら、慎重にツッカケを選び出かけた。
「おっと、後れ毛」
パクトの鏡でチェック。二つくくりに薄化粧は幼く見える。

手土産を買いに小さいスーパーに入ったところ、大根をさしたくなったので八百屋によった。空っぽのカゴかばんに大根を二本。この重みにより不規則なリズム生まれるのが快感である。リズム酔っていると果物屋に寄るのを忘れそうになった。慌ててマスカットを一つ買い、消費者金融の事務所のあるビルへ向かった。

一時間で用事は済んだ。マスカットがなくなった分、また不規則なリズム。そのままリズムに従って交番経由で家に帰る。その際、一本だけお礼に大根を置いていった。

「そろそろかな」
数日後、マンションの廊下に荒々しい足音が響く。現在服役中の首領ドンのとこの若い衆に「もうすぐよ、もうすぐよ」と電話してつないだままにした。再びipodを設定して玄関へ持っていく。第一発目がなった!

ドガーン!
「うひゃ」
とりあえず、ドガの絵の本物の前で取った写真を証拠として用意。これは紛れもなく首領ドンの家の中なのは有名。
「ワレ、金返さんけー!もう利子の7%もついとんじゃー!」
ドガーン!ドガーン!

シーン・・・

ちょっと靴べらの持つ方で、中からコンコン。
「でらうぇあー!!」
ドガガーン!!

腹を抱える自分の声が入らないように注意し、息を止めてipodも止めた。
電話越し、若い衆に「バッチリや、バッチリや」と言って約束を果たせたことを伝えた。


自由詩 踊り子の前の約束 Copyright 木葉 揺 2005-07-04 15:32:49
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