スーパーガールはキャノンボールで死霊と盆踊り
佐々宝砂

そのむかし、「キャノンボール」というオールスター総出演の大バカなカーアクション映画があって、バカにしながら見れば楽しいが、本気で楽しみにしながら映画館で見たら悲しくなるようなシロモノだった。本国ではどうだったか知らないが日本ではものすごく売れた。お正月映画で、あまり考えなくてもいい内容で、お子サマに見せてもそう害はない、という点が受けたのかもしれない。私は大人になってからテレビで「キャノンボール」を観た。大笑いしながらツッコミしまくりで観た。子どものときに観なくてよかったな、と思った。

80年代のはじめ、当時の子どもらしくスーパーカー狂だった私の弟は、「キャノンボール2」を観に行きたがった。私は行きたくなかった。つまらなさそうだと思ったからだ。そういう予感はわりとあたる方だ、と当時の私は思っていた。「宇宙空母ギャラクティカ」のくだらなさも、「最後の猿の惑星」のバカらしさも、私はきちんと予想したぞ、と当時は思っていた。実にかわいげのない中学生である。いつもなら家族で出かける正月映画鑑賞に、私は行かなかった。帰ってきた母は、「キャノンボール」はおせち映画だねえ、見栄えのいい高い材料がたくさん詰め込んであって、見た目ほどにはおいしくない、と言った。弟は何も言わなかった。ただ、ものすごく不機嫌そうだった。要するにつまらなかったのだろうと私は思った。

それから数年ちょっと経って、私の弟は、突然「スーパーガール」のビデオを家に持ってきた(どうでもいいけどβだった)。私と母と弟と三人で観た。私と母(熱狂的SFマニア)は大喜びでげらげら笑いながら観た。なにあの見えそで見えないミニスカート! なんでスーパーマンの「いとこ」なの? なんでSFなのに魔女が出てくるのー? わははははははは、うけけけけけけけけけ。あーくだらない。あーおもしろかった。ところでビデオ返さなきゃならないんじゃないの。えー。あんたこんなくだらないもん買ってきたの? 弟が怒り出した。泣きそうな顔で怒り出した。次に私が悲しくなった。楽しい時間を提供してくれた弟を、私はひどく傷付けてしまった。どうしたらいいかわからなくて、私がどんなに「スーパーガール」を楽しんだか説明したが、その説明は弟をさらに怒らせた。私はとても悲しかった。弟もいまや一児の父で、大人で、私の変な趣味を理解しているとは思う。今は許してくれると思う。それでも、私は、あのときのことを思うと今もすこしだけ心が苦しい。


いやそんな感傷的なことを書こうと思ったのではなかった。


「キャノンボール」は時代の波にうまく乗ったバカ映画で、当時は大人気だったが今は一部のバカ映画好きか車好きが観る程度だろう。マスコミが煽ったため一時的に売れても、やがて時間が経てばできばえに相応しい評価に落ち着くという例である。「スーパーガール」は、売り出したころも今も観たヒト誰もがバカと認めるバカ映画で、しょぼくて、マヌケだ。ツッコミどころは満載だが、誉めるところは主演のヘレン・スレイターのかわいらしさくらいしかない(一部趣味人にはフェイ・ダナウェイの魔女姿もおすすめ)。いっそ徹底的にコメディにしてしまえば、せめて「インナースペース」程度の映画になったんじゃないかと思うのだが、「スーパーガール」はコメディとしてさえ半端だ。続編ができなかったことを考えると、興行的にもダメダメだったのではないか。「スーパーガール」を楽しむためには、くだらないものをくだらないが故に愛でる心が必要で、そんな変な趣味は万人のものではない。

それでも「スーパーガール」を楽しむのは、「死霊の盆踊り」を楽しむより簡単だと思う。「死霊の盆踊り」を楽しむのはものすんごくむずかしい。私にすら、むずかしい。へぼ台詞、下手なダンス、不自然な背景、ちゃちなセット、だらだらした展開、そういうマイナス要素すべてを笑い飛ばせないとだめだ。「死霊の盆踊り」を観るのはほとんど拷問だ。ホラー好きバカ映画好きの私だって、二度観る気はしない。どうしても観ろと言われたら五倍速で観るぞ。見どころは、死霊に見えない死霊ダンサーねーちゃんずのおっぱいしかない。他にない。ホラーなのに怖くない。クソ映画なのに笑えない。もうほんとにどうしようもない。なにしろ脚本がかの史上最低映画監督エド・ウッド、さらにおそろしいことに、「死霊の盆踊り」は、史上最低映画と言われるエド・ウッドの「プラン9・フロム・アウタースペース」よりつまらない。ここまでつまらなくするのはかえって難しいんじゃないか。

と、いろんなヒトに言われ続けた「死霊の盆踊り」は、そのつまらなさ故になぜか伝説となり、DVDになるらしい。こんなもんDVDにするなら、「宇宙からのツタンカーメン」や「燃える昆虫軍団」をDVD化してくれ。2005/07/22発売だそーだが、ほんとうにつまらないので、買うと絶対後悔するよ、と書いても、買うやつは買うだろうなあ。私も買うかもしれん(笑)。だって、私はバカげたものが好きだもの。わざとバカをやってるのじゃなくて、結果的にそうなってしまったおバカなからまわりが好きだもの。映画監督の意図を無視した見方だということは認める。でも好きなのだ。愛してると言ってもいいのだ。映画だから、こんな見方も許される。でも、「キャノンボール」が、「スーパーガール」が、「死霊の盆踊り」が、もしも映画ではなく詩だったら、とくにネットで発表される素人の詩だったら、と考えると、私は・・・




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「インナースペース」おすすめ度プラス60(プラス100が満点)
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「最後の猿の惑星」おすすめ度マイナス10
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「死霊の盆踊り」おすすめ度マイナス78
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散文(批評随筆小説等) スーパーガールはキャノンボールで死霊と盆踊り Copyright 佐々宝砂 2005-07-03 15:21:51
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