からつゆ
エズミ

楠は#100、#150、#180、#220、#280、#400の順に紙やすりを当てると
曇りがとれて、すべすべになるんだ。

きょうは暑かった。
日が傾いて、ようやく軽くなった風が子供たちの声を網戸から濾してよこす。
わたしは削った楠の輪郭のあやふやを磨いている。#280まで漕ぎつけた。
子供たちの姿はここからは見えない。
幼い声が「蝉がないてる」と皆を呼んだ。
(紙やすりの音は油蝉に似ているんだ、へええ)
壁の向こう側には、息をひそめて耳をそばだてる雛のひとかたまりがいるんだな。
わたしが手を止めると、「とまった」ひそひそ声がする。
わたしはまた蝉になった。
すぐに、少し年嵩の声が「何かこすっている音だよ。しゃかしゃかって、こっちからする」見破ってしまった。
わたしは、なおも蝉になり続ける。

真夏には、いますこし遠い。


自由詩 からつゆ Copyright エズミ 2005-07-02 14:31:35
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