射的場の光
殿岡秀秋

        

旅館から浴衣がけで我々は夜の温泉街に出かける。川の橋の袂に、テントがけの射的場がある。酔っている我々はそこに入った。一本の銃がぼくに渡される。紅い人形を撃ち落せという。ぼくは狙って撃つ。すぐ近くの紅い人形に命中して落とす。射的用の銃が一本渡される。ぼくは次々と人数分の銃を借りることにほぼ成功した。そしていよいよぼくの分の銃を借りるために発射した。紅い人形に当たるが落ちていかない。みんなはぼくが借りた銃で射的をして騒ぐ。ぼくは自分の銃を借りるために紅い人形を撃ち続ける。弾が当たってもかすかに動くだけ。やがて射的を終えてみんなは橋を渡ってネオンが光る飲み屋街に消えていった。ぼくだけとり残された。何で、射的をやる銃を借りるために人形を撃ち落とさないといけないのか、と射的屋の主人に文句をいう。主人は煙草を吹かしながら川面を見ている。どうしよう、置いていかれてしまうよ、とぼくが呟くと、紅い人形は女雛のように微笑み、自分で頭から落ちていった。


自由詩 射的場の光 Copyright 殿岡秀秋 2005-06-29 06:13:50
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