イーサ・ダラワの七月の浜辺
嘉野千尋
イーサ・ダラワの七月の浜辺には
遠い国の浜辺から
いつのまにやら波が攫った
いくつもの言葉が流れ着く
嵐の後にそれを集めて歩くのが
灯台守のワロの仕事
ワロは今日もガラスの小壜を片手に
イーサ・ダラワの七月の浜辺を
てくてく てくてく
(流れ着いた言葉がどんな姿をしているかって?
それは秘密だとワロは答えるだろうけど
わたしはワロの小壜の中身を知ってる
そう、あれは…)
ワロは小壜の中に桜色の貝殻をひとつ
それから声を上げて泣き出した
「かなしい、かなしい」
ワロが抱くのは
誰にも届くことのなかった浜辺の言葉
あの夏の、あの午後に
麦藁帽子のあのひとが、愛しい人に贈った言葉
だけど誰にも届くことのなかった言葉
イーサ・ダラワの七月の浜辺で
ワロは流れ着いた言葉を集めて歩く
そして小壜はいっぱいになり
ワロは灯台守の仕事に戻る
日が沈み
灯台の灯がゆらゆら揺れる
窓辺に置かれたワロの小壜を
灯台の灯が今宵も美しく輝かせるので
揺れる光に導かれ
イーサ・ダラワの七月の浜辺には
愛しい言葉が流れ着く