ブタラジオ
プテラノドン
養豚場から柵を跳び越え豚が逃げ出した。
ラジオを首からぶら下げて。
田んぼの稲は真っ青。そこを豚は一直線に突っ切って
町の市場へと向かう。ラジオは大音量で、
「豚肉が高騰中!」と報じている。
豚は市場に着いたなら、身売りするつもりだった。
その金で、なんとか子供を救うつもりだったのだが
その日、市場は開かれていなかったし、
リサイクルショップに来たもんだから
僕のじいさんは、
ラジオしか買い取らなかった。
そして、豚の親子は何処かに売られていなくなったが、
ラジオの方はまだ店先で売れ残っている。
「そんな話、信じたところで誰も買いやしないよ!」と言っておばさんは、
値札といっしょに、僕の字でブタラジオと書かれた
シールを剥がそうとする。
おじさんは「止めないか!」と言って
ラジオのスイッチを入れる。
誰もいない店内。流れる曲にあわせておじさんは
ブタの鳴き声を真似していたが、おばさんは
無視して二階へ上がり、穴のあいたストッキングを脱いでいる。
一階からはまだ、豚の鳴き声が聞こえていたが、
正しくは僕のいた、窓の外から聞こえたものだった。
どちらにしろだ、
―あのラジオが売れることはない。