ブタラジオ
プテラノドン

養豚場から柵を跳び越え豚が逃げ出した。
ラジオを首からぶら下げて。
 田んぼの稲は真っ青。そこを豚は一直線に突っ切って
町の市場へと向かう。ラジオは大音量で、
「豚肉が高騰中!」と報じている。
豚は市場に着いたなら、身売りするつもりだった。
その金で、なんとか子供を救うつもりだったのだが
その日、市場は開かれていなかったし、
リサイクルショップに来たもんだから
僕のじいさんは、
ラジオしか買い取らなかった。
そして、豚の親子は何処かに売られていなくなったが、
ラジオの方はまだ店先で売れ残っている。
 「そんな話、信じたところで誰も買いやしないよ!」と言っておばさんは、
値札といっしょに、僕の字でブタラジオと書かれた
シールを剥がそうとする。
おじさんは「止めないか!」と言って
ラジオのスイッチを入れる。
誰もいない店内。流れる曲にあわせておじさんは
ブタの鳴き声を真似していたが、おばさんは
無視して二階へ上がり、穴のあいたストッキングを脱いでいる。
一階からはまだ、豚の鳴き声が聞こえていたが、
正しくは僕のいた、窓の外から聞こえたものだった。
どちらにしろだ、
―あのラジオが売れることはない。


自由詩 ブタラジオ Copyright プテラノドン 2005-06-26 18:25:54
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